今回は日本商工会議所(日商)「令和4年度税制改正に関する意見」についての後半です。前回はコロナ禍とポストコロナでの中小企業支援策についてコメントしました。後半ではコロナ関連以外のテーマを取り上げたいと思います。
消費税関連
インボイス制度への対応等
消費税インボイス制度は、2023年10月からの導入が予定されています。2021年10月からは適格請求書発行事業者となるための登録申請書の受付が始まり、実務も予定通りの導入を前提に動き始めています。
日商の意見によると「インボイス制度の導入は当分の間 、凍結すべき」としています。理由として、発行する請求書の様式変更、システムの入替・改修等にかかる事務負担と「免税事業者が取引から排除されたり、値下げ圧力を受け」ることの懸念を挙げています。
「免税事業者が取引から排除される」というのは、事業者が消費税仕入税額控除を受けるためには、仕入先から適格請求書の発行を受ける必要があるのですが、 適格請求書を発行できる事業者となるための登録は課税事業者でないと認められません。従って、 消費税仕入税額控除を受けたい事業者は適格請求書発行事業者からの仕入を優先する結果、「免税事業者が取引から排除 」されるのではないか、と懸念されています。
意見では「当分の間 、凍結すべき」 としていて、凍結している間に中小企業のバックオフィス業務のデジタル化を支援、推進して、中小企業の事務負担を軽減する環境整備を進めるべき、と主張しています。
インボイス制度の導入に全面的に反対ではないのは、消費税にまつわる「益税」の問題を意識しているからでしょう。消費税は物品やサービスの消費者が負担する間接税ですが、消費者が負担したはずの消費税が取引に介在する事業者の手元に残ってしまうのが、益税の問題です。
益税問題は消費税の導入当初から、その問題が指摘され続けてきていました。近年は法人税率が低下傾向にあった一方、税率が上昇している消費税の存在感が増しており、益税のような問題点が今まで以上に「悪目立ち」してきているという背景もあり、日商としても免税事業者の存在を無条件に肯定することが難しくなってきているのかも知れません。
軽減税率制度の見直し
軽減税率制度は将来的にはゼロベースで見直すべきである、としています。理由は、消費税の社会保障財源を毀損している、とか中小企業への過度な事務負担を挙げていて、軽減税率導入の根拠だった低所得者対策は所得に応じた給付措置で対処すべき、という主張です。
対象品目の拡大等によってこれ以上制度を複雑化すべきではない、とも言っており、制度の廃止は難しいにしても、これ以上制度を複雑にするな!という心の叫びのようにも聞こえます。ちなみに税理士業界でも軽減税率について好意的な評判は殆んどきいたことがありません。
おまけ 消費税免税、外国人留学生は除外
日商の意見ではありませんが、12月5日付の読売新聞の報道によると、令和4年度の与党税制改正大綱に、「訪日外国人向けの消費税の免税販売制度について、外国人留学生や企業研修生などの長期滞在者を対象外とする」案が盛り込まれる方針とのことです。
留学生らによる(転売などを目的とする)不審な免税購入の実態が明らかになったこと等が背景にあるようです。明らかになったのは、免税店が購入記録を国税庁に電子送信する「免税手続きの電子化」が2020年4月から一部で始まったことがきっかけとのことです。
取引記録が電子化され、事業者にその保存を義務付けることにより税務調査の効率が向上するという期待を税務当局が持っている、という話しを2022年1月から施行される改正電子帳簿保存法で電子取引記録の保存が義務化される文脈で耳にしたことがあります。取引記録が電子化されるにつれ、いままでは見逃されてきたような取引が顕在化し、スピーディな税制改正によって適正化が図られるようになるのかも知れません。
その他
小規模事業者の電子帳簿促進
小規模事業者の帳簿や証憑書類の電子化への取組みに対しインセンティブ措置を講じるべき、と主張しています。日商が2020年6月に実施した調査によると、売上高1,000万円以下の事業者では約半数は帳簿作成等の経理事務を手書きで行っているそうです。
上記の調査結果は少々驚きでした。もっと電子化されていたと思っていましたので。令和2年度の所得税確定申告から65万円の控除を得るためには、電子申告か電子帳簿保存が必要になりましたが、それでは足りない、というのが日商の主張です。確かに、電子化によって10万円控除額が増える程度のインパクトでは従来どおりのやり方になじんでいる事業者には響かないのかも知れません。
印紙税のすみやかな廃止
はんこレスが進みつつある中で、印紙税の廃止を提言しています。課税文書の判定が難しく事務負担が重いこと、という点も指摘しています。
日商に限らず様々な方面から廃止の要請が上がっている印紙税ですが、一部の課税文書に対する軽減はあっても、印紙税そのものの廃止にはなかなか至っていません。税収が1兆円程度あるので、一気に廃止するには財源の手当てがつかないのかも知れません。
印紙税は税理士等にとっては課税文書の判定に迷った事業者から相談を受けることはあっても顧問料などに結びつかない税目ですので、どちらかというと迷惑がられる存在です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回取り上げたような意見がそのまま政策に反映することはないかも知れませんが、実務的にどのようなことが意識されていて、どのように政府に働きかけているのかを知っておくと、今後の政府の政策をより深く理解するきっかけになるかも知れません。
一日一楽
鬼滅の刃遊郭編が本日12月5日から始まるのですね。先日無限列車編の放映がテレビでありましたので、その流れで観る人もいるかもしれません。ただ、日曜日の夜11時過ぎ開始というのは翌日から仕事のある人には少しつらいかも知れません。私の場合は、夢見が悪くなりそうなので、この時間帯での視聴はやめておくつもりです。夜中に目が覚めると怖そうだし💦