今回は法人成り(ほうじんなり)のタイミングをどのように考えるか、について解説します。
法人成りのタイミング 私の考え
個人として事業をはじめた事業者が法人を設立し、その事業を法人に移管して、その後は法人の名義で事業を運営することを「法人成り」といいます。前回解説したとおり、個人で創業するか法人を設立して創業するかについては、考慮すべき事項がいろいろありましたね。
新しい事業をはじめる場合、「ほんとうに計画通り売上が立つだろうか?」という不安もありますし、法人を設立する方が費用がかかりますので、まずは個人で創業するという判断をされる経営者の方も多いだろうと思います。
前回はあまり触れていませんでしたが、はじめに私の考えをお伝えすると、「事業を個人と法人のどちらで行うかは経営者の思いを優先すべき」と思います。どちらか決まっていれば最初からそれを選ぶのがベストだと思います。
その上で、事業の拡大志向があれば法人をおすすめしています。法人の方が個人よりも社会的信用が大きいのが通常ですから、人材や資金を集めるには法人の方が有利ですので、拡大志向の経営者であれば法人を選択するのが良いと思います。
ただ、そうはいっても、事業をはじめる前は拡大志向はなかったものの、だんだん顧客も増えはじめ、安定した売上も見込めるようになると考え方も変わるでしょう。自信もよみがえってきて、「もっと事業を拡大したい」と考え直すこともあるかも知れません。
では、「法人成り」するのに適したタイミングがあるのか、についてより具体的に考えていきましょう。
法人成りのタイミング 課税所得と消費税
「法人成り」する目安として2つのタイミングがあります。1つ目は所得が一定の金額程度になること、2つ目は売上の金額が1,000万円を超えること、です。前者は個人の所得税の計算の基礎になる「課税所得金額」に着目したもの、後者は消費税の免税点である1,000万円の課税売上という金額に着目したものです。
課税所得
個人の事業主は売上から経費等を差し引いて求めた「所得金額」から、さらに基礎控除や社会保険料控除など様々な「所得控除」を差し引いて求めた「課税所得金額」に一定の税率をかけてその年度の税額を計算します。
税額の計算は「累進課税制度」によっていて、所得金額が大きくなるにつれ税率が上昇するしくみです。所得金額が695万円を超える部分は23%、900万円を超える部分は33%、...という具合です。
いっぽう法人に課される法人税の税率はというと、資本金1億円以下の会社の場合、所得800万円以下の部分は通常15%、所得800万円を超える部分は23.2%の税率となっていて、それ以上所得が増えても税率は変わりません。
したがって、個人の税率が法人の税率を上回りはじめる課税所得金額が700万円を超えてくるあたりから、法人を設立して事業を法人の方に移管することを考えるのはある程度合理的な判断といえるでしょう。
ただし、個人の所得税の計算体系と法人税の計算体系はかなり違いがありますので、個人の課税所得金額と法人の所得を単純に比べてしまうのはやや大雑把な分析であることには注意が必要です。
消費税
個人の事業主は自ら課税事業者になるなどの例外を除き、消費税を納税する義務が生じるのは3年目からになります。つまり創業の1年目と2年目は消費税の納税が免除されることになります。現在の消費税率は10%ですから、2年間の合計売上金額が仮に1100万円だったとすると消費税分は100万円ですから少なくない金額ですよね。
そして3年目からは2年前の課税期間(この場合1年目)の売上が1,000万円を超えていれば3年目は消費税の納税義務が発生します。次に2年目の売上が800万円だった場合には4年目は逆に免税に戻ります。このように、2年前の売上が1,000万円超かどうかで毎年の消費税の納税有無が決まってきます。
なお、ここでいう売上は「課税売上」といって消費税が課される売上ですので、例えば賃貸アパートの家賃収入のような「非課税売上」は含まれません。
いっぽう、新規に設立した法人は一部の例外を除き、設立から1期目、2期目は消費税の納税義務はありません。3期目以降は2期前の売上により消費税の納税有無を判定し、以降も同様です。
したがって、個人の1期目、2期目の課税売上が1,000万円を超えていても、3年目からは法人を設立することにより、免税の期間がさらに2期分伸びますので、創業から4年目までは消費税の納税義務が生じないことになります。このような場合には、3期目から「法人成り」を考えるのは意味があることだといえます。
だたし、2023年10月から「インボイス制度」が導入されると、課税売上高1,000万円以下の免税事業者も事実上課税事業者になる選択を迫られる可能性がある、ということもいわれています。
そうすると、将来的には事業をいとなむ場合には売上金額の大小にかかわらず課税事業者を選択することがスタンダードになる可能性があり、消費税の免税事業者という恩恵を享受するということは「法人成り」を検討する際に考慮する余地がなくなるかも知れません。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
事業を個人で行うのか法人で行うのかは容易には判断がつきませんが、課税所得金額や消費税の納税義務を目安にするという考え方もあるということがおわかり頂けたと思います。
ただし、実際に法人成りする場合には、その手続として資産の移転や銀行口座の切り替えなどが発生します。これらの手続きも場合によっては大きな負担になりますので、今回説明した目安だけでなく、これら手続き的な負担も考慮して法人成りの判断を行う必要があります。
次回は「法人成りの手続き」について解説します。
一日一楽
いまは開業後の主な業務メニューとマーケティングについて日々考えています。もともとあった考えが研修への参加やブログを作成する中で日々ブラッシュアップされ、徐々に具体化されつつあります。このような循環は開業後も続くと思いますが、今は既存の業務がないため、自由にあれこれ「妄想」できるのが楽しいです。私の友人も一年目が一番おもしろかった、と言っていたのはこういうところかも知れません。