前回の法人成りのタイミングにつづいて、今回は法人成りの際の注意事項について解説します。
法人を設立する手続の概要は「個人VS法人創業時の事業形態の比較」の回をご覧いただければご理解頂けると思います。
注意事項としては、「資産の取り扱い」と「取引先の関係」がポイントとなりますので、順に解説します。
資産の取り扱い
はじめに
事業に利用する資産は個人で創業した場合には個人所有になっている場合が多いと思われます。例えば営業用に自動車をお持ちであれば、今後はその自動車を法人として利用することになります。
ところで、まず前提として個人と法人は法律的な人格が別ですから、法律上は他人どうしになります。他人である法人が個人の自動車を利用できるのは普通に考えると「法人が個人から自動車を借りる」か「法人が自動車を買い取って法人のものになっている」場合のどちらかですね。
これはあたなが社長となる法人と個人としてのあなた自身との関係であっても同様です。
したがって、自動車を法人に「貸す」契約を結ぶか自動車を「売却」する契約を結ぶかいずれかの対応が必要になります。
賃貸契約
まず法人に貸す場合です。貸与契約を結ぶことになりますが、無償で貸す場合と一定の賃貸料を取って貸す場合の2通りが考えられます。
どちらの場合も法人の方で発生するガソリン代や高速代は法人の経費として計上は可能です。ただし、個人でもプライベートで引き続き使用する場合には、法人の方で発生する維持費と区別する必要があります。
また、賃貸料を取る場合にはその賃料の設定をどうするかの検討が必要です。この場合個人の方に所得が発生し、給与所得以外の所得が20万円以上となる場合には、確定申告も必要になります。
なお、自動車は陸運局に個人名義で登録しているはずですが、これについては特に変更は不要です。
売買契約
つぎに法人に売却する場合です。この場合には登録されている名義の変更が必要になりますので、その分の手間は発生します。
売買契約を結ぶ場合にいちばん注意を要するのは「売却価格をいくらにするか」です。基本的には「時価」を売却価格とするのが問題のない処理になり、時価から大幅に乖離するような価格設定をすると税務上は問題視される可能性が高まります。
例えば、自動車を中古車販売店などで査定してもらうなどして市場で取引されている価格を把握し、これと乖離しないように設定していることを説明できれば、合理的な価格として是認される可能性が高まります。
法人が買い取ってからは法人の所有物になりますので、自動車税や車検のコストはもちろん、買取価格をもとに減価償却費を法人の側で計上することも認められます。
なお、一般的な取引では売却する場合には売主は対価をすぐに現金で受け取りますが、法人成りの際に法人から現金を売主である個人に支払わない処理を選択することも可能です。
例えば、法人に対する貸付として将来現金を回収することにしたり、現物出資といって会社の資本金や資本準備金にあてる方法があります。現物出資をおこなう場合には定款に所定の事項を記載する必要がありますので、会社の設立前にあらかじめ検討しておくと良いでしょう。
不動産の場合
以上は自動車に代表される資産を例に法人が資産を利用可能にするための手続きを解説しました。自動車や少額の備品などの動産であれば手続きもあまり大変ではありませんが、不動産業を法人成りするような場合には動く金額も大きくなる傾向がありますので、より慎重な検討が必要です。
たとえば個人で賃貸用アパートを保有しており、その事業を法人化する場合には、やはり個人と法人の間で賃貸契約(サブリース契約)や売買契約を締結する必要があります。賃貸料や売買価格の設定に注意を要するのは自動車の例で説明したのと同様です。
ただ、法人にアパートを売却する場合には法人側で不動産登記をする際の登録免許税や司法書士への手数料等と不動産取得税が発生します。アパートを金融機関からの借入で購入している場合には、法人への売却を承諾してもらい、かつ、法人の方にも新たに貸付をしてくれることについて了解を取り付けておく必要があります。
このように不動産の売却による法人成りには動産にくらべ大きなコストと手間がかかりますので、不動産業で起業する場合には創業の時点でこのようなことも念頭においておくと良いでしょう。
資産の取り扱いについては以上となります。つづいて取引先との関係について解説します。
取引先との関係
顧客や仕入先などの取引先との間では個人の名義で取引契約のようなものを結んだ上で、所定の個人の銀行口座を通じて入出金していることと思います。法人成りした場合には、あらかじめその旨を取引先に連絡し、了解を得た上で、原則的には新たに取引契約等を締結し直し、今後は法人名義の口座を通じて入出金するようにしましょう。
個人名義の銀行口座を使用し、契約も個人名義での契約をそのままにして法人として取引を継続することは取引先によっては許容してもらえるかもしれません。
しかし、取引先としてもその取引の相手方が個人なのか法人なのかの判別に苦慮する場合もありえますし、コンプライアンス上の観点から取引実態と契約名義をあわせるように求められるかも知れません。
また、将来的には税務調査を受ける可能性もありますので、そのようなときに取引実態と名義が一致していない場合には、法人の取引と認めてもらえないこともあり得ますので注意が必要です。
このように取引先を不必要に混乱させる可能性や税務署等への適切な説明の必要性を考慮すると、法人名義の口座を開設し契約も法人名義にて新規に締結することをおすすめします。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
法人成りする場合には個人で事業に利用していた資産を法人に利用させるために賃貸契約や売買契約などの手段が使えることと一定の対価を設定する場合の注意点がおわかり頂けたと思います。また、取引先との関係では、法人名義での契約の取り交わしや法人口座の指定など手続きを踏むことが必要になりますので、これらに注意しながら法人成りをすすめていただければ幸いです。
一日一楽
先日おはなしした豆苗が順調に育っています。1回目の収穫直後はあまり育っていない感じでしたが、きのう今日くらいから急に育ちはじめた印象です。これを励みにわたしも成長したいものです!💦