今回は電子契約について、導入した場合のメリットを中心に解説します。
電子契約とは
電子契約は従来紙で作成していた契約を電子的に作成した文書(PDFなど)に電子的な署名を付すことで作成する契約です。 前回解説したとおり、口頭でも契約は成立しますが、紙で作成された契約書が重視されるのは訴訟において一般に口頭の合意より契約書の方が証拠としての価値が高いためです。
口頭では後日の証言でどのようにでも言えてしまうため「話し半分」でしかきいてもらえませんが、実印を押した契約書があれば、通常は本人が納得して押印したのだろうから契約書の内容の合意は確かに成立していたのだろう、と評価されます。ですから逆に、三文判を押印した契約書では証拠としての価値は低くなるわけです。
電子契約の有効性
電子的な署名には実印と同じように本人によって電子文書が作成された、ということを示す効果があるため、電子署名が付された電子契約にも書面の契約書に匹敵する証拠としての価値が認められることにつながります。
電子署名の方式は電子契約サービスによって複数存在し、署名の法的な意味も変わる可能性がありますから、導入の際にはサービス提供業者や弁護士などによく確認しておくことをおすすめします。
電子契約のメリット 製本・郵送コスト、印紙代、管理コスト
電子契約には様々なメリットがありますが、 製本・郵送コスト、印紙代、管理コストの各コストを削減できることが考えられます。順にみていきましょう。
製本・郵送コスト
紙で契約書を作成する場合には、印刷、製本、押印、郵送の手間と費用がかかります。特に郵便代は数が増えれば費用は無視できないものになります。仮に契約書の送付にレターパックを利用する場合、1回につき370円がかかります。A4サイズを折らずに送れる普通郵便でも100gまでで140円程度かかります。返信用も同封する場合には金額はその倍になります。
また、紙をプリンターから印刷、製本した後、押印したうで送付状などを添えて封入してから、郵便局かポストに投函するという手間も発生します。そのうえ、発送した契約書が戻ってくるまでのタイムラグも数日は要するでしょうし、取引先の都合で更に時間がかかる場合もあるでしょう。
電子契約によれば電子メールでやり取りするような感覚で、コンピュータ上で簡単に契約の締結が可能です。契約内容の確認等には多少の時間を要するとしても、契約の締結にかかる時間をかなり短縮することができます。作成後の契約は電子データとして保存されます。
一例として、クラウド会計freeeから紹介を受けた電子契約サービスNINJA SIGN by freeeのLightプランの場合、契約書送信数50通/月の条件で、4,980円(税込5,478円)/月がかかりますので、一通あたり約110円のコストです。レターパック15通分が5,550円ですから15通/月以上の新規契約締結事務の発生が見込まれれば、郵便代だけをみても十分もとが取れる計算になります。
印紙代
紙で作成された契約書には印紙の貼付が必要な場合がありますが、現在の印紙税法の実務では電子契約は印紙税の課税文書には該当しないもの解釈されており、印紙税はかかりません。
紙の契約書を作成する場合、 スポットの請負業務であれば受託最低でも200円/通、継続的な取引の基本となる業務委託契約等を締結する場合には4,000円/通、の印紙の貼付が必要です。
契約書の印紙代の負担は、B to Bの取引では契約者がお互いに自社の分を負担するのが通常ですが、個人を相手にする場合には印紙代の負担を求めにくい場合もあるかも知れません。そのような場合には印紙代の負担は更に大きなものとなります。
ちなみに、印紙が必要な契約書への印紙の貼付を怠ると本来の印紙税額にプラスして2倍の金額が加算され、合計3倍の額の印紙税が徴収されます。法人税等の税務調査の際に印紙税についても確認される場合がありますのでそのような観点でも印紙の取り扱いには注意が必要です。
管理コスト
契約書は取引先との取引条件等を記録するため、また後日の紛争や税務調査等に備えるためある程度の期間保管するといった管理が必要になります。紙の契約書であれば保管のためにキャビネットを用意したり、外部の倉庫に保管する場合もあるかも知れません。
この点、電子契約であれば締結した契約を電子ファイルとして保存するだけではなく、様々な検索条件で検索することが可能です。電子データなので収納スペースも不要です。NINJA SIGN by freeeでは作成、審査、締結にいたるまでのプロセスをシステム上で管理することもできますので、締結前の業務の効率化を図ることも可能です。
電子契約の普及
一般財団法人日本情報経済社会推進協会と株式会社アイ・ティ・アールが2021年1月に共同で実施した『企業IT利活用動向調査2021』によると、電子契約の利用企業は、前回調査時(2020年7月)の41.5%から67.2%に拡大し、今後の予定を含めると、8割強が電子契約を利用する見込み、とのことです。国内企業981社のIT担当者を対象としたアンケートなので、専属のIT担当者がいないようなスタートアップ企業にそのまま当てはまるとは言えませんが、導入の勢いは確実に増しているようです。
私個人の経験ではありますが、2000年以降、5件の電子契約を体験しました。初めて電子契約を結ぶときは手続きがよく分かりませんでしたが、指示に従って文面を確認のうえ自分の氏名等を記載した後に所定の欄に署名をするといった手続きによりほんの数分で締結が完了してしまうほど簡単なものでした。もちろん締結した契約はパソコンに保管され、内容の確認はもちろん電子文書の中を検索することも可能で、とても便利に感じました(サービスによって機能に差があるかも知れません)。
このように取引先が電子契約サービスを導入していなくても電子契約を結ぶことは可能です。一度電子契約を体験するとその利便性を実感するのではないでしょうか。NINJA SIGN by freeeの提案を機に、私の事務所でも今後の業容拡大等も考慮し、導入の検討を開始しました。導入に向けての最大のハードルは利用者の固定観念かも知れません。
まとめ
電子契約には印紙税や郵便代にかかる費用や製本や発送という労力負担という様々なコストを削減するメリットがあることがわかって頂けたと思います。電子契約サービスは在宅勤務の普及やペーパーレス化の流れを原動力に今後ますます普及することが見込まれます。取引先の方から先に電子契約での契約締結を求められるかも知れません。電子契約サービスにも様々なタイプがあり、料金も異なっていますから、あらかじめそれらを比較検討し、自社にあったサービスをみつけておくことをおすすめします。