第一話では、嘉蔵の死とともに嘉蔵の遺言に示された財産の配分をめぐる三姉妹に確執が生まれるとともに、嘉蔵の愛人だった文乃の存在と文乃が妊娠しているという事実が判明しました。今回はその続きです。
第二話あらすじ
第二話では、遺言執行人である宇市が三姉妹の間をうまく立ち回り、三姉妹の弱みに付け込みながら、自分自身にも利益がもたらされるように交渉します。そうして遺産の扱いを決める親族会議の前までに、三姉妹それぞれと内々の合意を取り付けることに成功します。
一方、文乃は第一話で見せていた日陰者的な愛人という立場から徐々に当主の子供の母親としての強さを見せ始めます。宇市は体調のすぐれない文乃を気づかう素振りを見せ、宇市と懇ろな仲の女性を文乃宅の家政婦として潜り込ませます。宇市らは文乃が何か秘密を隠しているのではないかと詮索しますが、文乃はこの動きを察知し、秘密を守り通しながら親族会議の直前に無事に男児を出産し、本宅の矢島家の屋敷に乗り込みます。
遺言その2
文乃が出産した男児が本当に嘉蔵の子なのか、については、嘉蔵が生前に提出していた認知届により、嘉蔵の長男として戸籍に登録されていることが判明します。そのうえで、文乃が嘉蔵から託された新たな遺言が開封されます。その遺言には、長男が生まれた場合の遺産の処置について示されていました。主な内容は次のとおりです。
- 文乃の長男は嫡出子と均等の財産を相続すること
- 長男が成人に達したときには矢島家ののれんを継ぎ、次女夫婦と共同経営すること
- 長女と三女はそれぞれ独立し、分家で婿を取ってはならず、女系はお終いにすること
- 嘉蔵自身が別途作成していた財産目録が宇市の作成したものと相違する場合には、それは宇市の不正によるものであり、宇市には手切れ金を支払って追放し、良吉が遺言執行人となること
非嫡出子の相続分
嫡出子(婚姻関係にある男女から生まれた子)でない非嫡出子(文乃の長男は非嫡出子になります)の相続分については、従来の民法では嫡出子の1/2が法定相続分とされていました。この民法の規定は平成25年9月の最高裁判決で法の下の平等に反し違憲無効であるとされ、現在は非嫡出子の相続分を嫡出子の1/2とするという規定は削除され、非嫡出子の相続分は嫡出子と同等になっています。
このドラマでは文乃は平成26年10月頃に長男を出産していますので、新しい法律が適用されることになります。嘉蔵が認知届を提出したのが平成26年2月ですから、その時点で生まれてくる子の持ち分は三姉妹と同等であることはわかっていたはずですが、敢えて遺言に「文乃の長男は嫡出子と均等の財産を相続すること」と明記したのでしょう。
この新しい遺言には文乃が長男を死産した場合には文乃に1億円を与えるよう言及があり、その用意周到さに芳子が呆れてしまいます。
長女と三女の扱い
長女も三女もそれぞれ成人していますので、婿を取るかどうかは本人と配偶者の意思によることになります。親が存命中であっても、成人同士の結婚に親の同意がいらないのと同じですね。ドラマでは長女も三女も遺産の扱いについては「法律的には~」と言っていたのに、この点に関しては長女も三女も遺言を受け止めるつもりのようです。旧家ですから、法律的な効力よりも親の遺訓みたいなものの方が大事なのかも知れません。
長男成人後の処置
長男が成人に達したときには矢島家ののれんを継ぎ、次女夫婦と共同経営すること、と遺言にありますが、法律的な効力が認められるかはやや疑問が残ります。のれんを相続財産として捉えれば、停止条件(長男が成人に達すること)付き遺贈とも考えられそうですが、のれんは静的な財産というよりは、経営権を含む事業体という面もあるためです。
また、執行という面でも成人に達する18歳までに矢島商店の事業が継続できずに清算されてしまっていたりすると、「絵に描いた餅」にもなりかねません。
法律論以前に、そもそも次女夫婦と長男が穏便に「共同経営」など出来るのでしょうか?次女夫婦には子どもがいないので、親子ほど年齢の離れた長男(次女からすると末弟)を子供に見立ててやっていく余地もあるかも知れませんが、長男の方にも自身の意思も生まれてくるでしょうし、次女夫婦とやっていくのも窮屈に感じるのではないでしょうか。
長男が成人するまでは文乃も世話を焼く必要があるでしょうし、そうなると三姉妹と文乃のストレスフルな関係は今後も続くことを覚悟しなければなりません。かなりありがた迷惑な遺言だと思います。
嘉蔵の思い
このドラマの結末は、文乃の長男が4人目の相続人として名乗りを上げ、遺産相続に割って入ったことにより、三姉妹や芳子、宇市が描いた遺産相続のストーリーが最後の親族会議を前に土壇場でちゃぶ台返しを食らう、というものでした。最後に姉妹が恨めしげに嘉蔵の遺影を見つめますが、どんでん返しのシナリオを作った嘉蔵の心中はどんなものだったのでしょうか。
女系家族である矢島家に婿養子に入った嘉蔵には、矢島家の中には心を許せる相手がいなかったのでしょう。矢島家の当主とはいえ、婿養子としての引け目をつねに感じていたのかも知れません。また、宇市についても不正に気付きながらも面と向かって咎めることは出来なかったのでしょう。宇市もかつては同僚の番頭のひとりだった嘉蔵に対して含むところもあったようで、お互いに警戒心を解くことは出来なかったのではないでしょうか。
嘉蔵の回想シーンで嘉蔵が文乃の別宅の庭先で室生犀星の詩集を読むくだりがあります。嘉蔵にはロマンチストな一面もあって、文乃との逢瀬でそんな自分を取り戻していたのかも知れません。
おまけ 名シーン三選
「あぁ温泉芸者はんで」
本宅伺いに来た文乃と三姉妹、芳子が対面する場面で、芳子が文乃の素性について、いろいろ問いただします。そして嘉蔵との出会いを聞き、文乃の答えを受けて、鬼の首を取ったかのようなこのリアクション。カエルを睨め回すヘビのような形相の渡辺えりの顔芸が秀逸です。迫力ありすぎです。
「行くならパリッとした格好で行かなあきまへんで!」
妊娠して体調の優れない文乃の別宅に様子をうかがいに三姉妹で押しかけようとする場面での藤代のセリフ。宇市の静止を振り切って「歌舞伎見物」に行くような装いで乗り込みます。暴走族が特攻服に着替えるようなものでしょうか。ファッションってマウントを取るための手段だったんですね。
「相続の内祝いのお月見」
三姉妹の相続財産についての協議がまとまり、芳子の発案で相続の内祝いとして「お月見」に出かけます。お月見と行っても昼間のお月見なんですが、気まずい相続問題がまとまって元の仲の良い三姉妹に戻って、輪になって無邪気にボレロを踊ります。直後に文乃出産の連絡を受けてからの最後のちゃぶ台返しの前のつかの間の祝宴でした。
まさに「ぬか喜び」なのですが、姉妹がそれぞれ背負っていた相続問題の心理的負担がいかに重かったのかをあらわしているようなシーンでした。プライドの高い三姉妹ですから、金銭のことで争うのはやはりバツが悪いのでしょう。
一日一楽
2022年1月の予定だった改正電帳法の施行が2年延長される方向性みたいです。実務がついてこれるかなぁといぶかしく思っていましたが、案の定ですね。文書管理システムの導入も検討しましたが、こんな事もあろうかと導入は保留していました。実務を配慮して延期するのは良い判断ですが、真面目に対応していた事業者も多いはずで、施行直前での方向転換は行政への信頼を損ねます。